限界日誌

今日も一日限界生活

J-ALERTは「残念」か?

はじめに

 本日、北韓は太平洋に向けて中距離弾道ミサイル「火星12」と思われる弾道ミサイルを発射した。  

 北韓はこれまで日本上空を通過して弾道ミサイルを発射する際に行ってきた国際海事機関(IMO)に対する事前の通告を行わなかったため、全国瞬時警報システム(J-ALERT)は訓練以外で初めて国民保護サイレンを吹鳴し、情報を伝達した。弾道ミサイル発射時のJ-ALERT運用は2012年以降日本上空を通過する「ロケット」発射時にも行われてきたが、いずれも事前の通告により飛行経路が明確であった*1ため、ミサイル発射情報と通過情報をJ-ALERTおよび緊急情報ネットワークシステム(Em-Net)を用いて伝達するにとどまり、国民保護サイレンの吹鳴までは行われなかった。

 国民保護サイレンの吹鳴が初めてであり、早朝に北海道から甲信越、北関東の一部に至るまで情報が伝達されたこともあり、J-ALERTは大きな注目を集めることとなった。

 マスメディアにおいても多くの記事が配信されたが、その中で1つの記事が目に止まった。

 J-ALERTの効果に疑義を呈するものだが、その内容にはいくつかの疑問が含まれる。本稿ではJ-ALERTやそれと強く関連するEm-Netの目的や運用を説明し、当該記事の疑問点を指摘し、J-ALERTの有用性および課題を明らかにすることを目的としたい。

 

J-ALERTとは何か?

 当該記事中には、次の記述がある。

今回の発射でわかったことは、「やっぱりJアラートは国民保護にはほとんど役に立たない」ということである。

 当該記事の筆者が弾道ミサイル情報配信時の伝達速度をもとにしてJ-ALERTの国民保護に対する有用性を論じようとしていることが伺えるが、 J-ALERTは弾道ミサイル専用の設備でも、また国民保護専用の設備でもないということを指摘しなければならないだろう。

 そもそもJ-ALERTは「弾道ミサイル情報、津波警報緊急地震速報など、対処に時間的余裕のない事態に関する情報を国(内閣官房気象庁から消防庁を経由)から送信し、市町村防災行政無線(同報系)等を自動起動することにより、国から住民まで緊急情報を瞬時に伝達するシステム」*2 であって、弾道ミサイルのみに備えたものではない。

 例えば、大きな地震の際に、同報無線で緊急地震速報が配信されている光景を目にしたことがあるかもしれない。これはJ-ALERTによって配信された緊急地震速報を同報無線を自動的に起動させて音声で配信したものだ。J-ALERTによって配信される防災・国民保護情報は幅広く、配信されれば自動的に同報無線で放送される情報としては今日の弾道ミサイル情報や航空攻撃情報(よくJ-ALERTを「空襲警報」と形容する向きを見るが、厳密に言えば航空攻撃情報が空襲警報に相当する)などの国民保護情報、特別警報や先述の通り緊急地震速報などの情報が挙げられる。また、これは導入自治体の設定によるが、地震の後の震度速報や気象警報、津波注意報を自動的に配信することができる。その他にも気象注意報などがJ-ALERTを用いて配信され、自治体やメディアに字義通り「瞬時に」情報を伝達する機能を担っている。

 当該記事中、ジャーナリストの武冨薫は「Jアラートは100億円以上を投じて整備され、それを伝達するEm-Net(エムネット。緊急情報ネットワークシステム)とセットで国が主導して導入を進めてきましたが、“いざミサイルを撃たれたら、間に合わない”ことは当初から指摘されてきました。それなのに政府が『国民の生命と財産を守るため』と導入をゴリ推ししてきたのです」と述べているが、ここに武冨のJ-ALERTおよびEm-Netに対する根本的な無理解が透けて見える。

 

J-ALERTとEm-Net

 武冨はEm-NetをJ-ALERTの情報を伝達するシステムと認識しているようだが、両者の使途は類似して見えたとしてもそれぞれ別個のシステムとして運用されている。

 そもそもJ-ALERTは人工衛星を用いる地域衛星通信ネットワーク、Em-Netは地上の回線を用いる総合行政ネットワーク(LGWAN)を用いるシステムで、伝達手段からしてまるで違うのだ。「緊急情報ネットワークシステム」という名称に引っ張られてEm-Netを伝達のためのシステムと認識したのかもしれないが、両者の違いすらを理解せずに批判するのはあまりにもお粗末といえる。

 ではJ-ALERTとEm-Netという類似した、それでいて別個のシステムがどのように運用されるものなのかを説明していきたい。

 まずJ-ALERTは「全国瞬時警報システム」の名のとおり、地域衛星通信ネットワークを用いて数秒で情報を伝達できることを最大の利点とする。しかしながら、伝達できる情報は解析装置に登録された文章のみで、情報量に欠ける。すなわち、今回の事例のように「北韓がミサイルを撃った」という事実は伝達できても、「どこに撃った」という情報まで盛り込むことはできない。

 速報性に勝り、情報量に劣るJ-ALERTを補完するのがEm-Netだ。Em-Netは平時から自治体間の連絡に用いるLGWANを用いて、10枚以上の書類を自治体に伝達することができる。つまり、「北韓がミサイルを◯◯方面に発射した」という具体的な情報を伝達できるし、万が一被害が発生した場合などには詳細な情報を送信できる利点がある。ただし、伝達にはおよそ1分程度かかるとされ、速報性に劣る*3

 上記の通り、両者は相互の欠点を補完するような運用をされている。実際、本日の北韓のミサイル発射の際には、J-ALERTが発射を速報する一方、同時にEm-Netは発射方向も含む詳細な情報を送信し、ミサイル通過が確認されたときには、J-ALERTが先行して情報を伝達、Em-Netは2分遅れて通過時間、通過地域、破壊措置の有無、不審物への注意呼びかけを含む詳細な情報を送信している。その後、6時29分にはEm-Netを用いてミサイルの落下地点を含む総括情報が送信された*4

 また、これらのシステムは自治体のみならず、公共交通機関や病院、マスコミなどの「指定公共機関」も利用でき、これらの機関の安全確保や情報伝達にも使用される。たとえば、ミサイル発射時にほとんどのテレビ局やラジオ局が速報を行い、テレビ局では「国民保護に関する情報」と題された黒色の画面が表示された。これはJ-ALERTの受信機に設定されている受信画面で、この画面やEm-Netの情報を利用することにより、速報性の高い放送局にも迅速に情報が共有された。

 武冨も述べたように、J-ALERTの導入費用は安価ではない。受信機の整備だけで700万円のコストがかかるとされ*5、同報無線の起動装置を導入するとさらにコストは増大する。消防庁はシステム導入の助成に100億円以上を費やした*6。しかし、これまでに述べてきた通り、J-ALERTは弾道ミサイル発射時のみに用いられるシステムではない。国民保護はもちろん、広く災害時にも用いられるシステムだ。筆者は「これがJアラートの実力だ。発射情報から、わずか4分。あなたは今回、その4分で何ができましたか? 避難した? 慌てふためいていた? それとも、寝ていた?」という。しかし、これまでのようにFAXを用いた情報伝達を行っていれば猶予時間はさらに短縮される。緊急地震速報津波警報などの1分1秒を争う情報の伝達は昼夜を問わない。今日、ミサイルが早朝に発射されたように、職員が勤務しない時間帯にも災害や攻撃は起こりうるのだ。

 これらの事情を顧みず、ただ単に弾道ミサイル情報発表から上空通過までの猶予が4分「しか」なかったことを理由にJ-ALERT全体を「やっぱりJアラートは国民保護にはほとんど役に立たない」と断ずることは短絡的で、近視眼的な思考といえるだろう。

 

J-ALERTの課題

 一方で、広範な地域でJ-ALERTが運用されたことによって運用面の課題も見えてきた。

 先述の予算措置によって、現在ではJ-ALERTおよび情報伝達のための自動起動装置普及率は100%に達している。しかし、今回の発射で自動起動装置が正常に作動せず同報無線での情報伝達がなされなかった例、メールサービスで誤って訓練用の文面が送信された例が多発した*7。情報伝達が自治体まで迅速になされても住民に伝えられなくては意味がない。これらのトラブルはこれまでも行われてきた訓練でも明らかになっていたが、広範囲に発表された今回のミサイル発射で多くの自治体が正常に情報を伝達できない状態にあることが浮き彫りになった。そして、今回のミサイル発射情報では全国瞬時警報システム業務規程に定める音声放送の内容である

ミサイル発射情報。ミサイル発射情報。当地域に着弾する可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください。

ではなく、北韓のミサイル発射に備えて独自に作成されたと考えられる

ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。

という文面が放送された。これはあくまで筆者の個人的感想に過ぎないが、避難場所を「頑丈な建物や地下」に限定したのは好ましくないのではないだろうか。音声放送からの猶予が4分程度で、かつ放送が早朝であったことを考えると、誰でも入れる「頑丈な建物」の数は少なかったと考えられる。地下であればなおさらだ。もちろん頑丈な、コンクリート造りの建物や地下のほうが万が一着弾した場合の被害は少なく済む。その点でこれらの場所への避難が最適なのは確かだ。しかし、弾道ミサイルの着弾に猶予があまりないことを考えると、種類を問わず建物への避難を促す業務規程の音声放送の内容のほうが好ましかったと考えられる。

 たとえば、広島への原爆投下の際には、投下から20日後の平均半数生存距離は校庭が2080mなのに対し、木造の校舎の場合は720mという結果になった*8。コンクリートビルの場合は190mであったが、たとえ木造の建物であっても爆発時の爆風や熱線への暴露を回避できる屋内に避難したほうが生存可能性が高まることが証明されている。

 「頑丈な建物や地下」への避難にこだわり、屋外で避難のための4分間を消費してしまっては元も子もない。避難呼びかけの際の表現の方法にも検討が必要だろう。

 今回は事前通告無しのミサイル発射により、国や自治体は実戦的な状態で対応することになり、多くの課題が浮上した。北韓が上空通過時の事前通告を行なわず弾道ミサイルを発射するという事態はこれからも起こる可能性が高い。今回浮上した課題を整理し、着実に解決することが国や自治体に求められている。

ThinkPad X220iを買った

 昨年からドスパラのMagnate IMを使用していたが、ウイルスに感染して違法ポルノサイトの運営に悪用された挙句警察に家宅捜索されたり(ちなみに相当大規模だったようで報道までされた)、これに関連してプロパイダを追い出されたりと散々な目にあった挙句、クリーンインストール時の停電により見事にデータが破損、リカバリディスクを作っていない慢心ぶりのため修理に出す羽目にあったが、今月になって、朝起きた途端HDDの破損により起動できない状態となってしまった。もうこれ呪われてるんじゃないか

 前回の失敗に学ぶことなくまたしてもリカバリディスクを作成しておらず、しかしまた修理に出す金もないのでHDDを換装してLinuxでも入れようかと考えたが、諸々で1万円弱は掛かりそうなので、前々からノートPCが欲しかったこともあり、それなら中古品を安く買おうという結論に至った。

  • ノートPC(当然)
  • 持ち運びも視野に入れてB5サイズであること
  • 性能面で不満を抱いたときに備えて、メモリ増設が簡単なこと
  • 1万円以下
  • Twitterやら動画閲覧に困らない程度の性能
  • なんとなくThinkPadが欲しかったのでThinkPad

 と言った感じの条件で検索した結果、ヤフオクにX220iが6000円で転がっているのを見つけた。D-subポートと天板が破損しているようだったが、D-subポートは使うことはないし、外装の欠陥もあまりこだわらないのであまり問題はない。性能的には概ね満足できそうで、終了直前だったため入札。結局6500円での落札となったが予算内でお釣りが来るので満足できる結果だった。

 代金支払いなどを済ませ、月曜日に発送、翌日に到着した。

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外観。無骨な感じが気に入った。

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キーボードと液晶。トラックポイント(乳首)の存在も決め手になった。

 天板の破損はそれほど気になるレベルではなく、あくまで外観の問題なのでだいたい満足できる水準だった。スペックに不満が出たらメモリ増設やSSD換装を考えたい。

蒐集品を晒す-ベルギー王国軍 2級軍事十字章

 今回取り上げるのは、ベルギーの軍事十字章(Croix Militaire)だ。同章は、1985年に勅令で定められ、等級は1級と2級とが存在する。授与対象は双方ともに25年以上服務の士官となっている。例年およそ300個程度の軍事十字章が授与されているようだ。

 さっそく章を見ていきたい。

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マルタ十字と2本の交差した剣をかけ合わせた意匠で、中心にはベルギーの国章の一部である獅子が象られている。王国らしく、紐は王冠型となっている。七宝は十字部分のみに施され、1級軍事十字章には綬にロゼッタが付く。

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裏面。紐以下の意匠は表とほぼ同じだが、紐の王冠の頂点が十字状となっている。綬の端末は処理していないようで、ほつれが出ている。佩用は2本の長いピンを衣服に直接刺す方式のようだ。届いた当初、不用意に触れてピンの先が刺さってしまったので取り扱いには注意したほうがよい。

 年間300個程度しか授与されていない勲章とはいえ100年以上に渡り続いている勲章だと相当数が出回っているようで、eBayでは20ユーロで購入できた。日本語が使えないこともあってeBayでの注文は(トラブルがない限りやり取りはほぼないとは言っても)なかなか緊張するものだが、時にはこのような勲章を安価に入手できるのでぜひともeBayデビューに挑戦してみて欲しい。

蒐集品を晒す-オーストリア連邦軍 3級防衛服務章

 軍制やら何やらでしばらく更新をしていなかった「蒐集品を晒す」シリーズ。久しぶりとなる今回は趣向を変えて他の軍の記章を取り上げてみたい。

 今回取り上げるのはエスターライヒオーストリア連邦軍(Bundesheer)の3級防衛服務章(Wehrdienstzeichen 3.Klasse)だ。これは何らかの功績を称えるものというよりは、自衛隊における第32,33号防衛記念章(それぞれ25,10年)のように一定期間勤続した軍人に対して与えられるものとなっている。防衛服務章は1~3級までの3等級があり、それぞれ25,15,5年間の服務に対して授与される。

 早速章の意匠を見ていきたい。

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十字の中心にエスターライヒの国章が配されており、綬は日本の瑞宝章と同様に、独特の三角形状のものとなっている。3級防衛服務章では金属の素材のままだが、2級以上になると国章と十字に塗装が施されているようだ。

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章の裏面。中心には勤続期間を表す「5」が刻まれている。全体として状態はよく裏面にわずかばかりの擦り傷があるのみで、綬も堅く使い古された感じはない。5年以上勤務した軍人が退役の直後に売り払ったのだろうか。

 このような勤続章や以前取り上げた洪水救援出動メダルのような従軍記章のたぐいは、功労に対して授与される記章に比べるとあまり目立たない傾向にあるが、勤続章や従軍記章は折に触れて制定され、関係要員に授与されるため、軍装で特定の年代、経歴の軍人を再現する際には、ひと目で過去の軍歴を表示するこのような章が重要になってくる。

 今のところエスターライヒの記章を体系的に集める予定はないが、連邦軍のホームページを見ると多様な勲章、記章類があるので、ゆとりができたら集めてみたいと思う。

WAIS-Ⅲを受けた

 「自分は発達障害かもしれない」と思い始めてはや3年、ついに病院で検査を受けることになった。決まったら意外にトントン拍子で進むもので、面倒だと思っているうちに近所の病院から紹介状を取り付けて阿見町の大学病院に掛かることになった。

 初回の受診時には主な症状を話し、同行した家族からの意見聴取(昔の行動まで医師に話されるため同席していると気まずい。できれば別室でやってほしい)の後、翌週に検査の予定を入れ終わった。

 ということで迎えた検査の日、コミュ障に優しい自動受付機で受付を済ませた後別館の精神科へ向かう。そして医師と少し話した後臨床心理士が控える部屋へと案内され、2時間弱の苦行が始まった。今回受けるWAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)はその名の通り成人(16歳以上)の知能を判定するもので、主に言語性検査と運動性検査に別れ、さらに下部分類が存在するらしいが心理の専門家でもなんでもないのでWikipediaでも参照して欲しい。

 だいたい検査内容は、

  • ある光景が載ったカードを提示し、不足しているものを答えさせる(例:ドアノブがないドアのイラスト)
  • 言葉の定義を答えさせる(例:「失言」と書かれた紙を提示し、その意味を説明させる)
  • 2つの単語を示し、その共通点を答えさせる(例:「仕事」と「遊び」)
  • 人が連続して動作をしているイラストが載ったカードを複数枚並べ、ストーリーを持つように並べさせた上で内容を説明させる
  • 計算問題を出題し、暗算させる(例:15+5+10の平均は何か)
  • 数字または数字とかなを読み上げ、それを復唱させる、または逆から言わせる
  • ある図形を示し、同じ形があるかどうか答えさせる
  • 常識について質問し、答えさせる(例:江戸幕府創始者日本三景
  • ある物事の理由について説明させる(例:婚姻制度はなぜ必要か、山への植樹はなぜ必要か)
  • 積み木を渡し、例通りに組み立てさせる

などといったものであった。

 これが2時間続き、難易度は簡単なものから考え込んでも分からないものまで幅広いため、終了後は相当疲弊した状態になる。このWAISはニュルンベルク裁判の被告人にも行われたウェクスラー・ベルビュー式知能検査(考案者のウェクスラーはユダヤ系だったようで、ナチスの要人が多く訴追されたニュルンベルクでこれが行われたのはなかなか面白い)の改良型で、戦犯として訴追された上にこんな検査をやらされたらたまったものじゃないなという感想を抱いた。

 そして結果が出る7月10日、またいつものように受付を済ませ精神科に向かった。今回は気をつけて10時前に来たが30分待機。月曜だし病院なので仕方ないといえばそうなのだが、せっかちの気があることや、自分の知能指数がわかることもあってそわそわしつつ時間を過ごす。

 そして診察室内に呼ばれ、簡単に検査の感想を聞かれた後に結果の通知へと移った。やはり知能検査の結果は相当繊細な情報のようで、通知前には同行していた家族を退室させるか否かまで聞かれた。どうせろくな結果ではないだろうしあまり聞かれてほしくはないので席を外してもらった後に、3枚のA4用紙を渡された。WAIS-Ⅲのレポートだ。臨床心理士が検査毎に作成しているようで、検査の様子や結果、考察などが記載されている。しかし医師いわくこれは概要のようで、詳細は別にあるらしい。

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表紙。グラフで結果が記載されている。

 

 気になる結果だが、このグラフの通り、極めて分野ごとの差が目立つものになった。

 

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 言語性IQが132とかなり高い数値になっているのに対し、動作性IQは99、これらを合算した全検査IQは120となった。一応「全体的な知的能力の発達水準は高いと推定」とはなったが、これだけの開きとなると、「意味のある差」と結果に表記されることとなった。

 各分野の分析についても、言語理解は「語彙が豊富であること、日常的な問題解決や社会的ルールについての実際的な知識が豊富にあることがうかがえ」ると指摘される一方、知覚統合については、「平均程度有していると考えられ」るとされたが、「形の弁別や規則性を見つける作業は苦手と考えられ」る、「物の整理や分類はやや苦手かもしれ」ない、「部分間の関係性を掴むことや柔軟に思考することが苦手と推察され」るという見解であった。

 まとめとしては、「目で見た情報の処理、絵や図の理解や操作が全般的に苦手といえ」、「視覚情報より明確な言語指示の方が理解しやすい、視覚情報とともに言語説明があると理解しやすい傾向と推察」とのことだった。

 確かに指摘されてみると、昔から絵や図表を多用したものよりも文字の羅列によるレジュメを好む傾向があったし、私が資料を作成するときも文字列が中心で、図表のたぐいは最低限、申し訳程度になる傾向が強い。思考についても、どうもテンプレート的で保守的な傾向が強く、なぞなぞのようないわゆる「柔軟な思考」が要求されるものは苦手であった。

 なお発達障害の診断については、この検査や、チェックリストの結果を総合するに、診断の境界線上にあり、投薬を要する状態ではないとのことだった。この見解には私の幼少期のエピソードの情報が不足していることも影響しているようだ。ただ何らかの診断はできる状態らしく、具体的にどのようようなものであるかを特定するために検査を継続するようで、今度は自閉症スペクトラム指数のチェックリストを手渡された。

 発達障害の診断についてはいまだ途上だが、とりあえず本記事の趣旨であるWAIS-Ⅲの受検体験記についてはここで一区切りになる。自由診療ではずいぶんと高額になるようだが、保険が適用されれば数千円で受けられるので、もし引っ掛かるところがあれば試してみてもいいかもしれない。

右手を掲げて裁判所

 なんてことはない。「右手を掲げたら裁判所行きになっちゃうかもよ」というお話である。ナチス政権下の国民啓蒙・宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスはベルリン大管区指導者時代、わけの分からない見出しで耳目を集める、と言った広報戦略を取っていたので真似してみた。

 本題に入ろう。山内敏弘「西ドイツの軍隊と兵士の人権」(『獨協法学』第18号)という論文を読んだ。日本国内の国防軍絡みの研究は、もっぱら「軍服を着た市民」概念や、徴兵制などといった「兵士の人権」に焦点を当てたものが多いため、最初はそのうちの1つだと思って読み始めた。ただその中には国防軍内の司法に関する言及があり、それが興味深く思われたので少し紹介しておきたい。

 まず、軍内における懲罰、日本においてはもっぱら自衛隊法によって規定されているものだが、国防軍においては軍法に当たる軍刑法(Wehrstrafgesetz)が刑法の特別法として定められており、脱走や抗命などの罪を規定している。ドイツは軍法会議を設置していない(ただし、基本法96条は防衛事態または海外派兵、艦船乗組を命じられている軍の所属者に対する軍刑事裁判所の設置を規定している)ため、軍刑法に違反した場合は通常裁判所にて審理が行われる。

 軍刑法の他に、軍懲戒法(Wehrdisziplinarordnung)が制定されており、兵士法(Soldatengesetz)の規定に反した軍人を処分することが定められている。懲戒法による処分には権限を持つ上官が行う単純懲戒処分(Einfache Disziplinarmaßnahmen)と基本法第96条4項に基づき設置される部隊服務裁判所(Truppendienstgericht)によって下される裁判的懲戒処分(Gerichtliche Disziplinarmaßnahmen)が存在し、単純懲戒処分においては戒告から最大3週間の懲戒拘禁まで、裁判的懲戒処分においては減俸から懲戒免職までの処分を下すことができる。

 また、単純懲戒処分に対しては、部隊服務裁判所に不服を申し立てることができ、裁判的懲戒処分に対しては、連邦行政裁判所控訴することができる。

 ...とここまで国防軍内における司法について概説したが、その処分の裁量にも注目したい。懲戒法に基づき、兵士法で禁止されている軍服を着用しての政治的集会参加者に対して上官は懲戒拘禁4日を科した。また、『共産主義人民新聞』へ「連帯のあいさつ」を掲載するため兵士の署名を集めて回った兵士は懲戒拘禁14日を科せられている。同様の政治的行為は、日本においては自衛隊法第61条により禁じられ、違反した場合は3年以下の懲役または禁錮が科せられうる。

 このように、兵士法に基づき軍人の市民権を広範に認めている関係上、国防軍の政治的行為において法に反した兵士に対する処分は寛大な傾向にあるが、対して極めて厳正な処罰をもって臨む場合もある。例えば、ナチス時代に用いられた挨拶である「ジーク・ハイル」(勝利万歳)を同僚に対し呼びかけた兵士は懲戒免職、すなわち部隊勤務裁判所に訴追され、有罪判決を受けている。

 当然この処分の差異には日独の歴史観、軍(自衛隊)の方針の違いが大きく影響し、また軍人(自衛官)をめぐる司法制度にも大きな隔たりがあるため単純に比較するのは適当でないが、このように連邦国防軍が過去の教訓をもとに軍人に対する司法制度を整備し、運用していることは、改憲による軍(ないしは自衛隊の根拠規定)設置が議論され、これにともなって軍法会議の設置も検討されている現在の日本に大きな示唆を与えるだろう。

ロンメル元帥は二度死ぬ(かもしれない)(追記あり)

 連邦国防軍陸軍の将校、フランコ・Aなど3名が難民を装いヨアヒム・ガウク前連邦大統領やハイコ・マース連邦法務大臣などの政治家の襲撃計画を立案していた事件が報道された。

www.afpbb.com

 彼はどうやら極右的思想を有していた(しかもそれを隠すことはせず、学術論文でもその見解を明らかにしていたらしい)ようで、かねてより厳格な反ナチ的姿勢を示していた国防軍内でのこの不祥事は相当な衝撃を与えた。

 フォルカー・ヴィーカー軍総監は、全兵営(駐屯地)に旧国防軍関連の物品が存在しないかの捜索を命じ、もし存在するならば排除する方針を明らかにしている。

 捜索の過程において随分と兵営内に旧国防軍関連の物品があることが発覚したらしく、ウルズラ・フォン・デア・ライエン連邦国防大臣が兵営を視察した際にも営舎内に旧国防軍の記念品が展示してある状態だったようだ。

www.afpbb.com

 フランコ事件によって渦中にある兵営だが、実はそのうちのいくつかには過去のドイツの偉人の名前が冠されている。例えば、

などが存在する。

 シュタウフェンベルクやオルブリヒトのように、暗殺計画の実行に伴い処刑された人物であれば今後旧国防軍の遺産への規制が強化されてもその名が廃されることは考え難いが、ロンメルのように、最後に自殺を迫られたとはいえ、アフリカ戦線で英雄的な活躍を見せた軍人の顕彰は、旧国防軍の賛美に対する連邦国防軍側の今後の方針によっては難しくなってくるかもしれない。

 連邦国防軍と旧国防軍とをめぐる不祥事は今に始まったことではなく、1976年に第二次大戦で超人的な活躍を見せ、親ナチ的言動を示していたハンス・ウルリッヒ・ルーデルをめぐる不祥事(ルーデル・スキャンダル)が問題となり、将官が辞職する騒ぎにまでなった。

 このときはまだ旧国防軍出身者が現役であったが、当然今問題となっているフランコ・Aは戦後生まれ、中尉であったようだから若手将校である。しかも先述の通りその思想を隠していなかったのにもかかわらず有効な対策を取れずに襲撃計画の立案まで許したことは、過激思想に対する対策を建軍当初から進めてきた国防軍の根幹に関わる問題であり、連邦政府は今年の秋に連邦議会選挙が予定されるなかで「軍と過激思想」という極めて困難かつ根本的な問題に向き合うことを余儀なくされるだろう。

 

(17.05.26追記)

 フォン・デア・ライエン連邦国防大臣は、兵営のうち旧国防軍人の名前を関したものについて改名する予定であることが報じられた。これに伴い左翼党は、7月20日、すなわちシュタウフェンベルク等によるヒトラー暗殺未遂事件の日までに改名を完了させるよう要求しているようだ。

www.heute.de

 また、シュタウフェンベルク伯爵兵営に駐屯するザクセン州司令官ヘルムート・バウムゲルトナー大佐はドレスデンのラジオ局に対し、「シュタウフェンベルク伯爵兵営」の名はおそらく維持されるであろうと表明したようだ。

Graf Stauffenberg Kaserne wird vorrausichtlich Namen behalten > Dresden - Radio Dresden - Wir lieben Dresden!

 やはり連邦国防省ナチス抵抗者は例外とする方針のようだが、ロンメル元帥兵営を始め他の軍人の名を冠した兵営はどのように取り扱われるか注視していきたい。

 

(17.05.27追記)

 連邦国防軍のサイトを見たところ、17日に「旧国防軍に敬意を払って命名された兵舎名は現在の軍の伝統に適応していない可能性がある」として、旧国防軍人の名前を冠した兵営を年内に改名することが公表されていた。

https://www.bundeswehr.de/portal/a/bwde/start/streitkraefte/grundlagen/geschichte/tradition/kasernennamen/!ut/p/z1/hY_LTsMwEEW_hUWWeNyUgmFnpAapiqJK5RF7UzmJSYwcO3ImKfw9jip2VJ3dnLlzpAsSSpBOzaZVaLxTNu5C3h-fWf6ap49pmu_vGOUvjPNVtltRSuEdPq5FZDzTC8MpHBoNIjoeLjs2cAAJcsL-2OvGTD0IPBlEHf7w6KdQR09j50AMLvhLzeqbDD6g1UhUvTQC0SnXWL33NT-DHcjW-upclbtqzVqQQX_qoAOZQsQd4jA-JTShSGqf0LzKtrJ8E4P776XzI0K5JGHoM1YUm7m4ldXPid_8Av8b8eM!/dz/d5/L2dBISEvZ0FBIS9nQSEh/#Z7_B8LTL2922LP480AG8AA1FJ1005

 また連邦国防大臣は「連邦国防軍における伝統の理解と維持のための指令」改正の方針を公表し、ヴィーカー総監によれば連邦議会が閉会する秋までに改正は実施されるようだ。